取組紹介

エリア 山口県

【共催事業報告】自然資本を活用した地域づくりセミナー

主体
テーマ
方法

自然資本☓地域の文脈
〜地域のストーリーから生まれる協働のヒント〜

自然資本を活かした地域づくりでは、自然そのものだけでなく、その土地に息づく歴史や文化、暮らし、人々の営みといった「地域の文脈(ストーリー)」を読み解くことが重要です。文脈を共有することで、地域資源の新たな価値が見え、住民や企業、行政など多様な主体の共感と協働を生み出しやすくなります。
また、地域らしさを活かした持続可能な事業や活動へと発展させる力にもなります。

本セミナーは、地域の文脈を活かした自然資本活用の考え方と、その実践のヒントを学ぶことを目的として開催しました。

・開催日時:2026年9月18日(金)13:00〜16:45
・開催会場:周南市徳山駅前賑わい交流施設 交流室(山口県周南市)、オンライン(zoom)
・参加者:会場19人、オンライン10人

開会挨拶

環境省中国四国環境局 環境対策課 横山課長

地域循環共生権(ローカルSDGs)とは?

本日の重要なキーワードの一つに「地域循環共生権」があります。
すでに耳にしたことがある方も多いかもしれませんが、これは2018年に環境省が提唱した概念で、「ローカルSDGs」とも呼ばれています。一言で表現すれば、「地域にある資源をうまく活かし、環境・経済・社会の課題を統合的に解決する地域づくり」を目指す取り組みです。ここで皆様にぜひ知っておいていただきたい大切なポイントがあります。それは、「地域循環共生権に全国共通の正解(形)はない」ということです。
中山間地域、都市部、沿岸部など、それぞれの地域特性によって眠っている「資源」の形は異なり、そこから生まれる「課題」も当然変わってきます。

だからこそ、地域ごとのプロセスそのものが重要になります。

  • 地域の資源を発見する

  • 関係者をつなぐ

  • 新しい事業や価値を生み出す

  • 地域経済における循環を高めていく

この一連のプロセス自体が、地域循環共生権の姿なのです。

自立した地域が「ネットワーク」でつながる未来へ

しかし、一つの地域だけにすべての資源が揃っているわけではありません。
まずは地域固有の資源を活用してまちを元気にし、次はその地域どうしが「ネットワーク」でつながっていく。この相互支援のネットワークを日本全国に張り巡らせることで、地域から日本全体を元気にしていこう——これが、私たちが目指している未来像です。

カギを握る「目に見えない地域資源」とは?

この取り組みを進めるうえで、最も重要になるのが「地域の資源」です。
資源というと、森林や農産物、観光地といった「目に見える形のあるもの」を思い浮かべがちです。しかし、実はそれだけではありません。
その土地で人々が代々受け継いできた歴史や文化、暮らしの知恵、そして人々が紡いできたストーリー——こうした「目に見えない資源」の中にこそ、地域を元気にする本当のヒントが隠されています。

基調講演

「BE-PAL ライターが語る自然資本活用のカギ」
ネイチャー・ジャーナリスト 鹿熊 勤 氏

1.「三方よし」から考える持続可能な経済

人と人との関係性や共助、自然環境とのつながりを含めて価値を考えるヒントとなるのが、近江商人の「三方よし」の考え方。「売り手よし、買い手よし」にとどまらず、「世間よし」を加え、商いを通じて地域社会全体を良くしていく。この「世間」を今日的に捉え直せば、地域社会だけでなく地球環境まで含めて考えることができる。経済活動と自然環境を対立させるのではなく、自分、相手、地域・環境のそれぞれにとって持続可能な関係をつくることが重要である。

2.自然資本を介して「対立」を「協働」に変えるー柏島のアオリイカ産卵床づくり

具体例として、高知県柏島で行われているアオリイカの産卵床づくりを紹介。漁業者とダイバーが対立を解消するために始めた、間伐材などを海中に沈め、アオリイカを増やすための産卵場所として利用する「豊かな海」の活動が、地元の学校教育へと広がり、産卵床に使用する間伐材を提供する上流域の林業地域ともつながり、産卵床の「里親制度」を始めたことで、地域外の支援者へと広がり、森・川・海、そして地域内外の人々をつなぐ取り組みとなった。これは、地域資源を中心に新たな関係性をつくる「三方よし」の実践であり、地域循環共生圏にも通じる事例といえる。

3.地域に眠る「資源」と「知恵」を掘り起こす

地域資源を活かすためには、目の前にある自然を具体的に見ることも重要である。「自然」「環境」という抽象的な言葉だけで捉えるのではなく、そこにどのような生き物や資源があり、それらがどのようにつながり、人々がどのように利用して暮らしてきたのかを知る。その中から、これまで気づかなかった地域の価値を発見することができる。地域づくりでは、新しいものを外から持ち込むだけではなく、地域に「もともとあったもの」を見直すことも大切である。

4.自然資本を「小さな仕事」と「暮らし」につなげる

もう一つの視点が、大きな収益を一つの事業で生み出すのではなく、小さな仕事を組み合わせて暮らしをつくるという考え方である。藤村靖之氏の「月3 万円ビジネス」は、自然豊かな農山村には、小さな収入を生み出せる仕事の種が数多く存在するという発想である。一つの仕事に多額の投資をして大きな利益を求めるのではなく、複数の「小商い」を組み合わせる。同時に、野菜やエネルギーなどの自給率を高め、暮らしに必要な支出そのものを減らしていく。そこでは森林、水、農地、空き家、地域の技術、人とのつながりなどが重要な資源になる。自然資本を活かすとは、単に地域資源を商品として販売することだけではなく、それらを暮らしの中で活かし、小さな仕事を生み出しながら、地域で持続的に暮らしていくことでもある。

5.「コモンズ」と「信頼関係⼈⼝」から地域の可能性を捉え直す

農山村には都市にはない大きな資源がある。それが、自然環境をはじめとする「コモンズ(共有財)」である。水、空気、森林、海、里山などは、単に経済的に利用する資源ではなく、多くの人が関わりながら守り、利用し、次世代へ引き継いでいく共有の財産である。「田舎には何もない」のではなく、その価値に気づく視点が不足しているだけなのかもしれない。地域活性化を考える際にも、都市のマーケティング手法をそのまま持ち込んだり、イベントへの来場者数だけを成果としたりするのではなく、地域自身が自然や暮らしの価値を見つめ直すことが重要である。

「関係人口」を単なる人数として捉えるのではなく、何度も訪れる、困ったときに力を貸してくれる、地域とのつながりを感じているといった、より深い「信頼関係人口」として捉える視点が必要。地域の魅力とは、美しい自然そのものだけではない。その自然を活かしながら、そこで楽しそうに、幸せに暮らしている人の存在も大きな魅力となる。地域にある自然や文化、暮らしの知恵を改めて見つめ、その価値を自分たち自身が理解し、楽しみながら活かしていく。その姿に共感する人が地域外から加わり、新たなつながりが生まれていく。

6.まとめー地域の「文脈(物語)」から新しい地域づくりへ

自然資本を活かした地域づくりとは、地域資源を単に「商品化」することではない。自然を深く見つめ、そこに蓄積された暮らしの知恵や物語を掘り起こし、それを人と人との新しい関係や小さな仕事、地域内外の協働へとつなげていくことである。一つの自然資源に目を向けることから、立場の異なる人々がつながり、地域内外へと協働の輪が広がる可能性がある。地域に昔から存在しているものや、忘れられてきた知恵の中に、新しい地域づくりの種があることを示している。大切なのは、地域にある自然資本と、それをめぐって人々が積み重ねてきた暮らしや文化を一つの「文脈(物語)」として捉え直すことである。その地域固有の文脈を見つけ、その価値を共有し、さまざまな人との協働によって新しい営みへとつなげていくことに、持続可能な地域づくりの可能性がある。

 

事例紹介

「食べて守る地域の自然資源」 美郷町役場 安田 亮 氏

1.鳥獣害対策を「点」ではなく地域づくりの「線」にする

島根県美郷町は、人口減少と高齢化が進む山間地域である。私自身、まちづくりの担当を経験した後、林業・鳥獣対策の担当となり、約20 年以上にわたって鳥獣害対策を起点とした地域づくりに取り組んできた。まず、獣害対策を抜本的に見直し、捕獲したイノシシを資源として活用し、それをさらに地域づくりへとつなげていった。重要なのは、一つひとつの取り組みを「点」で終わらせず、「線」にしていくことである。その第一歩として、狩猟と被害対策を分けて考えた。従来は猟友会に依存していた捕獲を、農家自身が狩猟免許を取得し、自分たちの農地を自分たちで守る仕組みへと転換した。冬の狩猟は猟師が担い、夏の農作物被害への対応は地域住民が主体となって行う。こうして鳥獣害を「専門家に任せる問題」から「地域で取り組む問題」へと変えていった。さらに、被害対策で捕獲した夏のイノシシを処分するのではなく、処理施設へ集約する仕組みを整えた。捕獲したイノシシを地域資源として活用することで、農家の負担軽減と資源利用を同時に実現していった。

2.イノシシから「地域の仕事」と「たまり場」を生み出す

捕獲したイノシシについて、その革を使った革製品づくりを地域の女性たちに提案。美郷町には、かつて盛んだった養蚕や縫製工場などを通じて培われた手仕事や縫製の技術が残っていた。その地域に蓄積されてきた技術と、新たに生まれたイノシシ革という資源を結びつけた。ここで重要なのは、「何を作るか」よりも「誰がやるのか」である。
地域の女性たちが 「やってみよう」と思えた背景には、それまでの地域活動を通じて培われた信頼関係があった。また、安心して参加できる環境を整えることも大切で、革製品は地域の集会所で活動している時にしか購入できない仕組みとした。宣伝も口コミが中心。目的は大きな利益を上げることだけでなく、重要なキーワードは「たまり場」。
革製品をきっかけに山間の集落まで人に来てもらい、作っている女性たちと出会い、地域で時間を過ごしてもらうこと。人口減少によって地域の人々が自然に集まる場所が失われた背景から、市場や革製品づくりの集会所を、現代の「たまり場」として再生した。 人が集まり、会話し、情報を交換するところから、新しい活動やつながりが生まれることに価値がある。

3.「モノ」ではなく「ヒト」を中心に地域資源を活かす

イノシシ肉そのものを商品として販売するだけでは、牛肉や鶏肉などとの価格競争になる。しかし、革製品を作っている人に会いたい、その地域を訪れてみたいという思いが生まれれば、単なる商品の売買とは異なる関係が生まれる。
地域づくりを考える際には、「モノ」や「お金」だけで解決しようとする発想から離れることが必要である。 大切なのは「コト」であり、さらにその中心にいる「人」である。地域資源を活用することによって、人が集まり、人と人との関係が生まれ、その関係が次の活動を生み出していく。その循環をどのようにつくるかが重要になる。
また、地域づくりを持続させるためには、補助金だけに依存しない仕組みが必要である。「補助金を引いた時に地域に何が残るのか」を常に考えなければならない。全国一律の制度や その時々のブームに合わせた事業ではなく、自分たちが地域で長年向き合ってきた課題や、足元にある活動を見つめ、それを少しずつ大きくしていくことが、ブレない地域づくりにつながる。

4.課題解決から価値創造へー「みさとバレー」の展開

人口減少が続く地域では、地域内部の人材だけですべてを担うことには限界がある。そこで現在、美郷町では「みさとバレー構想」を進めている。これは鳥獣害対策を核に、行政、企業、大学、地域住民などがつながり、知識や技術、人材を持ち寄ることで、新たな価値を生み出そうとする取り組みである。単に地域の課題を解決するだけではなく、課題を起点として新しい仕事や技術、ネットワークを生み出す「地域創造型」の取り組みへと発展させている。例えば、廃線となった鉄道敷を林業の作業道として活用する試みや、専門的な鳥獣捕獲を担う事業者との連携、捕獲したシカの動物園での餌としての利用、学校給食や飲食店でのジビエ利用など、鳥獣害対策を起点に多様な活動が広がっている。こうした動きの積み重ねによって、「ジビエのまち」というイメージも、行政が一方的に作るのではなく、地域内外の人々の活動から自然に形成されていく。地域の物語は、キャッチコピーを先につくることで生まれるのではなく、地域で続けられてきた実践の積み重ねから生まれてくる。

5.持続可能な地域づくりを支える「共感」と「学び」

地域づくりを持続させるためには、規模は小さくても「お金を生む仕組み」が必要である。同時に、行政、企業、大学、住民などが連携する際には、それぞれが持つ強みを持ち寄ることが重要になる。それぞれの立場の「最大公約数」をできるだけ大きくし、共通する目的を見つけることで、持続的な協働につながっていく。補助金は活動の出発点ではなく、すでに動いている取り組みを後押しする「味付け」のような位置づけで活用することが望ましい。
地域に主体的な活動があり、そこに企業や大学、行政などがそれぞれの強みを持ち寄り、必要に応じて公的支援を組み合わせるという順序が重要で、自然資本をめぐる地域課題の背景には、人間関係や利害関係、地域社会の変化が存在している。だからこそ、自然を相手にする取り組みであっても、「人」に焦点を当てることが重要になる。そこで鍵になるのが「共感」と「学び」である。同じ問題意識や思いを持つ人たちがつながり、それぞれが蓄積してきたノウハウや経験を分かち合う。そのつながりが、新しい取り組みや地域を越えた協働へと発展していく。

6.まとめー地域の課題に向き合った先に地域固有の答えがある

自然資本を活かした地域づくりには、どの地域にもそのまま当てはめられる「特効薬」はない。重要なのは、自分たちの地域が長年向き合ってきた課題を見つめ、その解決に取り組む中から地域固有の答えを見つけることである。美郷町の取り組みも、最初から「ジビエのまち」や「みさとバレー」という完成形を目指したものではない。農作物を守るための鳥獣害対策から始まり、捕獲したイノシシの肉や皮の活用へ進み、地域に残っていた縫製技術や女性たちの力と結びつき、そこから「たまり場」や地域外との交流が生まれた。そして、その積み重ねが企業、大学、行政などとの新たな協働へと展開してきた。地域資源の価値は、資源そのものだけにあるのではない。地域が抱えてきた課題、そこで培われた技術や知恵、それに関わってきた人々、そして長い時間をかけて築かれた信頼関係をつなぎ直すことで、新たな価値が生まれる。自然資本を活かすとは、足元にある資源と地域固有の「文脈」を見つめ直し、それを人と人とのつながりや仕事、暮らしへとつなげていくことだといえる。

 

参加型ワークショップ

「自地域の文脈を地域づくりに活かす」 EPOちゅうごく 志賀誠治

ゲストトークからの学びを、参加者一人ひとりが「自分の地域」での実践へと引き寄せる――。
そんな意図のもと、対面とオンラインのハイブリッド形式で参加型ワークショップ(ワールドカフェ形式)を開催しました。

本ワークショップの目的は、大きく3つあります。

  1. ゲストトークの知見を自身の地域づくりへ適用する

  2. 文脈を活かしたアイデアを言語化し、他者の構想からヒントを得て着想を強化する

  3. 文脈の視点からステイクホルダー(関係者)を再考し、協働に向けた具体策を練る

議論を深めすぎることよりも「互いの意見を聞き合い、視点を広げること」に重点を置いたプログラムで展開されました。

個人の省察とグループ対話を繰り返すワーク

ワークショップでは専用のワークシートを使用。「個人記入(5分)→ 小グループでの共有(1人1分×5人)→ 全体共有(5分)」という15分程度のサイクルを複数回繰り返すスタイルで進行しました。

参加者は、以下4つの問いに沿って思索を深めていきました。

  1. (地域づくりに活かせそうな)あなたの地域にある文脈とは?

  2. 実現したい地域の「自然資本×文脈」のプロジェクトとは?

  3. プロジェクト実現に必要なパートナーは?

  4. パートナーを巻き込むためのポイントは?

各問いに対して自らの考えを書き出し、グループ内で短時間でシェアすることで、他の参加者の多彩な視点や工夫が新たな刺激となり、各自のアイデアがより具体的にブラッシュアップされていきました。

オンライン参加者も一体となった会場づくり

当日はオンラインでの同時参加も行われました。

オンライン参加者にも共通のワークシート(デジタルドキュメント)を配布し、記入と共有をリアル会場と同時進行。あえてブレイクアウトルームには分けず全体進行とすることで、オンラインの参加者全員がなるべく発話しやすい一体感のある環境が整えました。最後にはいくつか特徴的な事例が選ばれ、オンライン参加者全員で共有されるなど、多様な地域からの視点が交差する貴重な機会となりました。

地域特有の「文脈」を掘り起こし、それを自然資本と掛け合わせながら未来の仲間を巻き込んでいく――。
それぞれの参加者が、明日からの地域活動に向けた具体的な第一歩を持ち帰るワークショップとなりました。

参加者の声

<現地参加者>
・改めて地域の自然と人との関わりを考える機会となりました。ありがとうございました。
・志賀さんの進行で楽しく、真剣に受講できました。
・たくさんの方と交流できて、いろんな意見、話題が出て良いインプットができました。
 似た場所で活動されている人とも交流でき良かったです。ワールドカフェをもう少しじっくりしたかったです。
・大変参考になりました!ありがとうございました。
・ワールドカフェのようなプログラムに参加できてよい経験になった。
 多様な人と交流できたのは少し驚いたけどよかった
・ワークがあったことで、具体的な発見や気づきがあり、すぐにでも少しは動き出すことができそうです。
 ありがとうございました。また、参加したいです。
・色んな地域、行政の方と知り合えて楽しかった。
・新しい視点や考えていたことの確認ができました。

<オンライン参加者>
・今回はご紹介いただきありがとうございました。自然を守るにも人、着火剤となる人がやっぱり必要なのだとお二人の講演を聞いて思いました。
・まず、身近で皆が参加できるようなものを考えたい。
・記憶、記録(メモ)に残しきれないことが多かったです。
 情報量が多すぎて処理できずもったいなかったです。せっかくの機会を作っていただいたのに申し訳ありません。
・全体の絵と参加しやすい方法を。太田川なのか、何かいきものなのか。。。
 こっち目線ばかりで上流へだけではなく、海、下流の課題や感覚も必要、自分たちもつづけていきたいとおもえることで。
・町内のみんなの信頼関係人口の方がよろこんでいただけるもの、ことってなんだろう?が答えの近道かもしれない。聞いてみよう。
・今の組織体制だけではなく、次の組織体制も考える。みんながやりやすい、住んでいる人が楽しみやすい体制を。

この記事の発信者

西村浩美(にしむら ひろみ)

コーディネーター

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