取組紹介

エリア 岡山県

【インタビュー】岡山大学大学院 教育学研究科 川田 力教授

主体
テーマ
方法

国立大学法人岡山大学 大学院教育学研究科
川田 力教授

 川田教授は、都市地理学、社会地理学、教育の地理学、ESD(持続可能な開発のための教育) を研究されており、10年以上に渡り学校教育を中心としたESDの推進に取り組まれています。

 ESDとは、持続可能な社会の創り手を育む教育のこと。中国地方ESD活動支援センターでは、情報発信や人材育成等を通して中国地方でESDに取り組む主体を支援し、中国地方におけるESDを推進しています。

 EPOちゅうごく/中国地方ESD活動支援センターの運営委員をお務めの川田教授から見た中国地方ESD活動支援センターについてインタビューしました。

【インタビュアー】
EPOちゅうごく/中国地方ESD活動支援センター スタッフ:濱長・沖本

 

Q.川田先生がESDの推進に取り組むことになったきっかけはなんですか?
A.岡山大学でESDを推進する上で、まず取り組みやすいと考えられたのが、私の専門である地理学でした。

 2005年、岡山市は国連大学から世界で初めて「持続可能な開発のための教育に関する地域の拠点(RCE)」に認定されました。岡山大学は、このRCEの推進主体である岡山ESD推進協議会に主要メンバーとして加わり、 大学内でもESDの推進に積極的に取り組み始めたのです。その際、教育学部が取り扱う専門分野の中で 、ESDにまず取り組みやすいと考えられたのが、私の専門である地理学でした。

 地理学は、自然科学、社会科学の幅広い学問分野と関連が深く、身近な地域から、日本全体、世界のことも学習する空間的な広がりのある学問です。環境教育と開発教育が合わさってできたという経緯のあるESDですが、以前からそれらを両方ともカバーしてきたのが、学校教育においては「地理」でした。ただ、私は当初からESDの専門家だった訳ではなかったので、全国でESDに取り組んでいる方々に取組のノウハウを聞きに行ったり、様々な地域でのESD活動の見学に出かけたりしてESDを学びました。その時のつながりが今でも私の取組を支えてくれていると実感しています。

 その後、具体的な取組として、全国で十数校だったユネスコスクールをまずは500校に増やすことを目標とした活動に加わりました。当時の日本では、ユネスコスクールというESDの推進拠点になる学校を育てることで、学校教育におけるESDを推進するというアイデアがあったのです。

取組を始めた頃は「そもそもESDって何?」という段階でしたが、私がプログラムを作って学校の先生向けの研修会を開催し、ESDやユネスコスクールについて説明したり、ESDの取組を進めている学校の事例紹介をしたりしていました。ESDの重要性や魅力をお話しし、みなさんの学校の取組はユネスコスクールにふさわしいですよ、と伝えたりしてESDに取り組む学校やユネスコスクールを増やしていきました。また、積極的に取組を進めている学校に対しては伴走支援をしました。それぞれの学校の特色や、それまで行われてきたよい取組を活かしながらESDを推進するよう心がけていましたね。

 

Q.中国地方でESDを推進していく上で、中国地方ESD活動支援センターが担うべき役割は何でしょうか?
A.人材をつなげるのが重要な役割だと思います。

 それぞれに異なる地域の 現状や課題を細かく見取りながら、専門性を持ちつつ課題解決につなげていくようなノウハウを持った人や、そのノウハウを受け継ぎ発展させる人を育成することが重要です。そのために、人や資源を結び付け、全体を俯瞰する立場でマネジメントできるのがESD活動支援センターでしょう。

 優れたノウハウを持った人は、声がかかったら自ら出かけて行って解決に取り組まれることが多いのですが、その人に頼り切りになることで次に続く人が育ちにくくなっているケースもあります。ノウハウを持った人とそれを受け継ぐ人をつなげ、経験を積む場面を設けることで人が育ちます。

例えばESDについても、日本でESDの取組が始まった当初から活躍されている方が今でも最前線で活躍されているのをよく目にします。それはすばらしいことです。一方で、これからは次に続く人に上手にバトンを渡すことも大事だと思います。

 直面する課題解決の面からはその解決にすぐに役立つ支援をすべきですが、場合によっては解決にかかる時間は多少長くなるけれど、解決のためのノウハウを受け継ぐ人を育成する場を上手に提供するという支援も必要だと思います。

SDGsは2030年までに様々な地球的・世界的課題を解決することを目標にしていますが、それらの課題を解決しても必ずまた新たな課題が生まれます。直接的に課題解決を目指すだけでなく、教育によって課題を解決できる人材を育成することが重要だという意識をどれだけ持てるかが鍵となると思います。

Q.中国地方でESDを推進していく上で、中国地方ESD活動支援センターは今どのような役割を担っているでしょうか?
A.中国地方のつながりを作ってくれています。

 東西に広い中国地方で、人びとや様々な取組がつながるのが難しいところを工夫してつなげてくれているので、中国地方ESD活動支援センターは中国地方の中で積極的に活動しているセンターというイメージが定着してきていると思います。

 比較的若い組織なので吸収力があることが魅力の一つです。その吸収力が「つながる力」と関わっているので、大きな可能性を感じます。

 スタッフは当初からESDの専門家というわけではなかったのでしょうが、ESDについて学習しながらノウハウを得て業務にあたっていますよね。今はスタッフがノウハウを蓄積している段階だと思いますが、蓄積できたノウハウを別のところで上手に伝えればそれはまさにESDです。ただ、そういったことはある程度意識的に行わなければ継続しないことなので、「人の育ち」に目を配って活動することがとても大切だと思います。

 場合によっては課題解決自体がうまくいかなくても、課題解決に向けた取組 の中で人が育てばそれは一つの大きな成果といってよいと思います。ESDの本質に近いですよね。

 

Q.中国ESDセンターに今後期待することは何ですか?
A.ESDの重要性をより多くの人びとに理解してもらうことと、ユースの活躍の場を意識的に作ること。

 ESDの重要性についての理解がまだ十分でない地域に中国地方ESD活動支援センターが関わることで、少しずつESDが受け入れられているのは成果だと感じますので、今後もそのような地域にESDの取組を広げていただけたらと思います。

 中国地方には、中山間地域と呼ばれ人口減少や高齢化が極端に進んでいる地域もあれば、人口の多い都市もあります。それぞれの地域の課題に合わせて、人やノウハウをつなげていくことが重要です。

 そして、今後はユースの活躍の場面をより多く作ることにも、ぜひ力を入れていただきたい。ESDに関心を持つ大学生などの若い人たちが増えていますが、活躍できる場がどこにあるのか わからなかったり、若い人たち自身が中心になって活躍する場が少なかったりすると感じています。

 岡山のユネスコスクールでは、高校生が学校を越えて学び合う場が設けられていますが、そこでの活動のサポートを大学生に担当してもらっています。ユネスコスクールの活動をしていた高校生が大学に進学してサポート側に回り、さらに大学卒業後に教員 となってその活動に関わる人も出てきて…「人の育ち」 が見え始めていてすごく嬉しいです。中国地方ESD活動支援センターも、事業で関わった大学生などの若い人たちのその後を確認できると、自分たちの取組を目に見える形で振り返ることができると思います。そうした若い人たちの年代間のつながりを上手に作っていくことが大事です。

 


ESDとは?

ESDはEducation for Sustainable Developmentの略で「持続可能な開発のための教育」と訳されています。
ESDとは、現代社会のさまざまな問題を自らの問題として主体的に捉え、人類が将来の世代にわたり恵み豊かな生活を確保できるよう、身近なところから取り組む(think globally, act locally)ことで、問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・教育活動です。
つまり、ESDは持続可能な社会の創り手を育む教育です。(文部科学省サイトより引用)


中国地方ESD活動支援センターとは?

ESDに関わる多様な主体が分野横断的に協働・連携してESDを広げ深めることを通して、中国地方の諸問題の解決や教育の質の向上を図ります。

1.情報の収集・発信
全国ネットワークを活用して、ESD活動を支援するための知見・ノウハウを蓄積・共有し、ESD推進のための情報を地域内外に発信します。

2.支援体制の整備
地域の課題・ニーズを踏まえた支援方策を検討し、それを共有・実践するためのネットワークや地域ESD拠点の創出・形成・強化を図ります。

3.学びあいの促進
様々な分野・世代においてESDの理解が進み、多様な主体の取組にESDの視点・手法が取り入れられるような学びあいの場を支援します。

4.人材の育成
学校や社会教育施設、大学、企業、地域等におけるESDの実践者・コーディネーター・ユースを育成し、その活躍のための場づくりを支援します。


 

この記事の発信者

濱長真紀(はまなが まき)

コーディネーター・ESD統括

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