今般、ニホンザルの生息状況や被害状況、管理に関する知見等を踏まえ、ニホンザルに係る特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドラインを改定しましたので、お知らせします。
■ ガイドライン改定の目的
特定計画が策定されている府県においては、これまでの取組によって、被害が軽減した地域も見られますが、ニホンザルの生息数や分布域が増加拡大傾向にあって、依然として被害が継続して発生している地域もあります。これらの地域においては、単に加害群の数を減少させるのではなく、加害レベル(※)のより高い群れを優先して減少させる取組を進めていく必要があります。
このため、今回の改定では、加害レベル4以上の群れに対して、群れの全頭捕獲を含め、優先的に群れ数を減らしていく方針を示すとともに、捕獲実施の意思決定過程の合理化など、被害軽減に必要な捕獲が迅速に実施できるような管理の進め方を示しました。
また、旧ガイドラインでは、加害群の現況を把握した上で、目標を明確にして行う「計画的な管理(捕獲)」を推奨しましたが、一方で「地域個体群の保全の基準が明確ではない」という課題が残っていました。今回の改定では、管理を進める上で配慮が必要な地域(以下「要配慮地域」)を選定し、その地域において捕獲を実施する上での配慮事項を示しました。(※)加害レベル
群れの加害性を、群れの出没頻度、出没規模、人への反応、集落の農作物被害や生活被害の状況から判定したもの。加害レベルは、レベル0(被害がない)から、レベル5(著しく加害性が高い)までの6段階に分かれる。
■ ガイドラインの主な改定事項
比較可能な14府県の平成29年度及び令和4年度時点の特定計画等における加害群数は948 群れから988 群れに増加した一方、加害性の高い加害レベル4及び5の群れ数は315 群れから275 群れに減少しました。また、農作物被害額は平成26年度の13億円から令和4年度には7億円と約4割減少しました。
以上から、加害群の数が増加傾向にある地域においては、加害レベル4以上の群れに対して、群れの全頭捕獲を含め、優先的に群れ数を減少させることが望ましいという方針を示しました。(2)要配慮地域に関する事項(Ⅰ3.(5):P15~P18)
ニホンザルの保護及び管理を進める上では、被害を軽減する一方で、加害レベルを上げることなく群れの連続性を保つために、地域個体群の保全(安定的な維持)を図る必要があります。
Enari et al.(2022)により、ニホンザル個体群の最小コストパス解析が行われ、連続性が強固な地域(=被害軽減のために積極的な個体群管理が可能な地域)と脆弱な地域(=保護に配慮が必要な地域)とが判断できるようになりました。
そこで、当該解析結果を元に、管理(捕獲)を進める上で、個体群の連続性と規模に特に配慮が必要な地域を、要配慮地域として選定しました。要配慮地域の選定は、要配慮地域の個体群の連続性を維持することで地域個体群を保全するとともに、それ以外の地域(要配慮地域以外)では積極的な管理を進められるようにするものです。
併せて、要配慮地域における配慮事項を示しました。
(3)生息状況の把握(モニタリングステップ)に関する事項(Ⅱ1.(1)P23~P26)
群れの加害レベルや対策に応じてどのようにモニタリングをステップアップしていくか判断できるよう、各モニタリングステップを踏むことによる対策への効果や、要配慮地域内外におけるモニタリングの考え方等を示しました。
(4)加害レベル判定方法に関する事項(Ⅱ1.(2):P26~P28)
加害レベル判定の実施に当たって、より適切に判定が行えるよう、判定基準に解説を加えるなど明確化し、改善を図りました。
(5)特定計画の評価と改善に関する事項(Ⅱ2.(6):P30)
ニホンザルの順応的管理に必要な、結果の評価(Check)、計画の改善(Act)に関する内容を示しました。
(6)保護・管理の目標に関する事項(Ⅱ2.(7):P30~P32)
要配慮地域の選定を踏まえて、要配慮地域内外それぞれの中長期的な保護・管理の目標を示しました。また、要配慮地域以外においては、加害レベル4以上の群れ数を減らしていくことも目標となることを示しました。
(7)捕獲オプションの選択手順に関する事項(Ⅱ2.(9)2):p34~P36)
特に要配慮地域以外において、被害軽減のために必要な捕獲がより円滑に実施できるよう、捕獲オプションの選択手順を変更しました。具体的には、加害レベル別の捕獲対策等の考え方を明記するとともに、捕獲の意思決定の簡略化(※)等を示しました。併せて、加害レベルに応じた捕獲をより適切に選択できるよう、要配慮地域以外及び要配慮地域での捕獲手法の選択の考え方を図示しました。
(※) 捕獲の意思決定の簡略化
加害レベル3以上の群れに関して、全頭捕獲、多頭捕獲を実施する際は、ステップ3、4まで把握していることが望ましいが、加害レベル5や人身被害が発生するおそれが高い等の場合は、捕獲を先行することも止むを得ないと示しました(ただし、捕獲による成果が出ない場合には、ステップ3、4まで把握して、目標を明らかにした上で捕獲を進めます。)。
(8)モニタリング調査手法に関する事項(Ⅲ1.(1):P44~P50)
調査手法への参考文献URLの追加や、モニタリングステップ3の手法(群れ探索行動特性調査)の追加等を行いました。
(9)捕獲手法に応じた捕獲方法に関する事項(Ⅲ2.(1):P50~P57)
各捕獲手法について、対象となる群れや手法、留意点、事例について整理しました。
(10)資料編に関する事項(Ⅳ:P61~P94)
要配慮地域を地方別に拡大した図及び要配慮地域の一覧を示しました。
要配慮地域及び要配慮地域以外において、特定計画に基づく保護・管理を実践している事例と管理ユニット単位で地域実施計画を策定している事例について、内容を更新するとともに、新たな事例を追加しました。
市街地に、群れではなく単独または数頭のニホンザルが出没した場合の対応について、対応の考え方や方法を示しました。
ニホンザルを含む野生鳥獣の保護管理対策に活用可能な国の制度を例示しました。
■ 本ガイドライン案に関する意見募集(パブリックコメント)の実施結果
令和6年1月15日から同年2月14日(2)意見募集の結果
意見の件数 3件(意見の概要とその対応は別紙参照)